加藤ヒロ 公式サイト

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2018.12.27

クリスマス・イブの電話会議

もう10年以上前に遡る。。

とある有名ブランドのライセンスを受けていた日本法人を、そのブランドを保有するオーナー会社に売却するという案件のアドバイザーを依頼された僕は、9月頃から相手方の代理人と交渉を開始していた。

元々は、ブランドのオーナー会社が自前で展開していた日本のビジネスだが、上手くいかなかった末に手放した会社を、その後の業績が予想以上に回復したことで、世界の中でも日本市場がとても重要な地位を占めるに至ったことから、自分で買い戻したいという、まあ、よくある話だ。

大体、ブランドのオーナー会社はその日本法人を「買わせろ」と高飛車な態度で迫ってくる。

「買わせろ」と迫るのはいいが、あたかもそれは元々は俺のものだからという態度で、とてつもなく安い値段で「買わせろ!」と言ってくるから困ったものだ。

彼らからしてみれば、日本法人が儲かっているのは自分たちがライセンス(使用許諾)しているブランドに、そもそもの力があるからだと頑なに信じ込んでいる。

確かにブランドに魅力は必要だ。

でも、ブランド事業はブランドの知名度とか歴史とか知名度だけで上手く行くことはあり得ない。

実際にその数年前には誰がやっても日本では上手く行かなかったブランドだ。

世界的な一部の超有名ブランドを除けば、それぞれの国と市場に見合ったデザインとか広告とかマーケティングの仕掛けとかが必要で、そういうものを熟知した各国の事業パートナーによるマーケティングや小売展開等のノウハウが、ブランド力と上手く噛み合って初めて商売は上手く行くものだというのが僕の見解。

それをグローバルで統一したがるのがブランドのオーナー企業の意向。

中途半端にしか売れていないのに、それをやると直ぐにビジネスは崩壊する。例えば、日本ではフラッグシップの路面店を欧米の人達は直ぐに出店したがるけど、大体そこで損失を垂れ流して損して撤退するブランドを僕はたくさん見てきた。

それでも、自分たちのやりたいようにやりたいらしい。だから、日本法人を「よこせ!」となる。。

そういう態度だから、大体のケースでは「その値段で売りたくなければ、まあ、今売らなくてもいい。その代わり、次のライセンス契約の更新は認めないからな。」という脅しを堂々としてくる。

この案件も例外ではなかった。

一方で、欧州のブランドオーナー側にとってみれば、将来的なIPOを見据えて、日本法人を傘下に収めることはグローバルでの成長戦略の観点からは絶対にやらなければならない事情があった。

だから、こちらからは相手の「買わせろ」モードのふざけた条件提示に対して、超強気のカウンター条件を提示して、これに基本的に乗ってこなければ一切の話し合いには応じない、という強行な姿勢で臨んだ。

相手側の代理人と何度か交渉の場を持ったものの、話は一向に噛み合わず、気が付けば季節は12月へと入っていた。

さすがに相手も、このままでは埒が明かないと思ったのか、こちらの主張の一部を認めるような態度で接するようになってきた。

何故なら、ライセンス更新の時期というタイムリミットが近づいていたからだ。

ブランドオーナー側にとって、「じゃあ、ライセンスを更新しないからな」と啖呵を切ったところで、実際には振り下ろすことが出来ない刀であることは分かっていた。なぜなら、ライセンスを切られてもこちらから店舗や販売員といったビジネスを継続する上で必要な大事な資産は相手に渡さなければ、スムースに商売を継続することは不可能だからだ。

そんなこと、最初から分かっているのに強気の態度で交渉してくるから、こちらとしてもそれ以上に態度を硬化させざるを得なかったのだ。

痺れを切らした相手方は、最終的にはこちら側の提案をベースに交渉のテーブルにつくという意向を表明してきて、その後、何度かのキャッチボールを行って、もちろん、案件をまとめるためにこちらも最低限必要な譲歩もし、最後にいくつかの重要なポイントだけがペンディング事項として残された。

そして、その重要イシューを解決するために、いよいよ最終交渉の会議の場が設けられた。その会議は電話で行うこととし、そして、その電話での最終交渉がセットされた日は、なんとクリスマスイブ。

最終交渉だから、ある程度意思決定権を持っている人が同席して、その場で話をまとめるしかないから、そんなお偉い方々の多忙なスケジュールを相互に調整したところ、もう、そこしか合う時間がなかったみたいだ。この日程でセットされた時点で、僕はほぼ勝ちを確信していた。。(M&Aの交渉に勝ち負けはないのだが。。)

開始時間は、日本時間の夜。欧州時間では午後遅めの時間で、一般的な家庭ではクリスマス・パーティーがあと2〜3時間もすれば始まるくらいの時間か。。

定刻に電話会議が始まる。

先方からの参加者は社長ただ一人。

可哀想に。。。そりゃ、そうだよな。クリスマス・イブだし。。

しかも自宅から電話をしているらしく、電話口の向こうで子供のはしゃぐ声も漏れ聞こえてくる。。

きっと、奥さんあたりに「あなた、一体いつまで電話してるの!今日が何の日か分かってんの?」なんて言われていたりして。。。

結局、日本時間で日付を超えた頃に、大方の条件を先方が飲む形でほぼ契約交渉は終了。

そんなクリスマスの日に、欧米の人が契約の大詰めの交渉をやっちゃダメでしょ。やっぱり・・。

まあ、僕らにとってみれば、ラッキーだったかも知れないけど。

それにしても、あの頃はしょっちゅうそういう深夜の電話会議とかやってたな。。

若かったからな。。

もう、、無理だな。。うん、絶対、無理だな。

もう、出来ない。。
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