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2019.05.05

タネツケバナとの戦い

大阪から車で7時間かけて移動し、半年ぶりの山小屋へ。

着いた途端、目に飛び込んできたのは、半年放置したことで、すっかり自然に溶け込んでしまった敷地内の風景。

つまり、人間的視点から言えば、「荒れ放題」である。

敷地内に置いてある鳥の巣箱は倒れ、バードバスは傾き、畑のエリアにはコケが生え、芝生スペースには雑草が生い茂り、大きなアリから小さなアリまで至る所に蟻の巣が出来ている。

建物が壊れていないので、「荒廃」という表現は大げさだが、これで屋根でも崩れていればまさに「荒廃」だ。

僕らが半年空けただけで、建物に隣接している倉庫は大量のカマドウマが占拠し、平穏な永遠に続くと思われた暗闇を支配していた。

突然、開いた扉から差し込んだ太陽の光に、彼らにとっての暗闇の平和は打ち砕かれ、天井や壁から無数のカマドウマが飛び跳ね、パニック状態に陥っている。

アリにしても、カマドウマにしても、元々は彼らの居住区に僕たち人間が入り込んでいっただけだから、人間が留守の間に彼らが主権を取り戻してしまうのは自然の摂理とも言える。

傾いてカラカラに乾いたバードバスをまっすぐに直し、ジョウロで水を満たしてやる。

すると、シジュウカラがすぐそばにやってきて僕がジョウロで水を入れるのを太太しい表情で首を傾け見つめている。

こんなに野鳥が近くまで近寄って来るのは珍しい。

「早く、入れてくれよ。もう3日も水浴びをしていないんだ。早く水浴びをしたくてたまらないんだ。」

そうか、、理由はどうであれ、彼らの中にも僕の登場を待ちわびていたものがいたとすれば、それはそれで心が救われるというものだ。


翌朝、僕は大きな決意と共に戦闘態勢に入る。

この日の敵は芝生エリアに生い茂ったアブラナ科タネツケバナという雑草だ。

この雑草の厄介なところは、引っこ抜こうとするとタネの鞘が弾けてタネが飛び散ること。

自らの命と引き換えに種を後世に残す命がけの行為とも言える。

そんな種を残すことに一生懸命になっているタネツケバナを引っこ抜くのは非常に心苦しいのだが、引っこ抜けば引っこ抜くほどその勢力を拡大させてしまったために、今や大切な芝生エリアを占拠するまでに至ったタネツケバナの横暴を僕はこれ以上許しておくわけにはいかない。

僕は農作業用の手袋をはめ、地面に座り込んで汚れても構わない作業ズオンを履き、頭にはバンダナを巻く。

雑草を抜く作業には、それを何が何でもやり遂げるという、大きな決意が必要なのだ。

臨戦態勢の僕は、まずはタネツケバナが最も群生しているエリアから手をつける。

タネが飛び散らないように慎重に抜いていくが、幸いにもまだタネを飛び散らすほどタネツケバナは成熟していないようだ。

だからと言って乱暴に引っこ抜くと根っこが残ってしまうので、茎の真ん中あたりを優しく握り、根っこを揺らすように2、3度力を加えると比較的簡単に抜ける。

これがタンポポのように深い根っこを持った植物だったら本当に厄介だ。

このようにして、僕は一心不乱にタネツケバナを抜いていく。

山小屋の北側で、キジが鳴き声を上げる。「ギャーギャー!(ブルブル)」。

そして、南側からも別のキジの鳴き声が聞こえた。「ギャーギャー!(ブルブル)」。

もし、僕が生きているうちにキジにインタビューすることができるのなら、ぜひ聞いてみたいと思う。

「どうして、あなたは「ギャーギャー!」と二度鳴き声を上げた後、ブルブルと羽を鳴らすのですか?」

するとキジはこう答えるであろう。

「いやあ、どうにもこうにも「ギャーギャー!」って鳴くのって君には分からないだろうけど、結構力が必要な行為なんだ。そう、一瞬全身に力を入れないといけない。そうしないと「ギャーギャー!」って鳴けないんだ。その後の、ブルブルってのは、その力んだ体をリラックスさせるための行為なんだ。無意識のうちにね。いや、そうしないと僕たちは「ギャーギャー!」と鳴く前の状態に戻れないだ。だからブルブルっと羽を震わせるのさ。」

「ギャーギャー!(ブルブル)」と今度はもっと遠くの方から別のキジが雄叫びをあげた。

。。。

それにしても、タネツケバナは大量に生えている。

結構、抜いたと思っても、横からみればまだまだ大量に残っている。

まあ、彼らにとってみれば、子孫を残すチャンスは年に一度しかない訳だから、その与えられたチャンスを確実にものにするためには、これくらい大量に生い茂らないと割りが合わないんだろう。

そういえば、野生の動物も繁殖期は年に何度もある訳ではないし、犬だって通常は年に二度しかメスは繁殖期を迎えない。

後世に種を残していくには、それなりの知恵と工夫が必要なんだ。

一方で、人間はいつでもどこでも発情することができる特別な種類の生き物だと、その昔何かの書物で読んだことがある。

それは種を残すためにとても重要な要素であり、だからこそ、人間はここまで地球上を支配するまでになったと。

それなのに、今の日本の出生率は2.0を大きく下回り、人口の減少傾向に歯止めがかかっていない。

僕たちは種を残すという意識を、、もはや有していないのか。。。

そんな人間が今、タネツケバナが種を残すチャンスをことごとく奪い去っている。

。。。

そんな他愛のないことでも考えながらでないと、雑草抜きはやっていられない。

流石に疲れてきて、首を上げ視線を築山の方に向けてみる。

すると、そこには大きなキジの番いが悠然と歩いているではないか。

その距離わずか15メートル。

メスのキジは、僕の視線にすぐに反応して、そそくさと築山の茂みに身を隠したが、オスは僕の存在を知ってか知らずか、相変わらず悠然と振る舞うように、焚き火用のファイヤープレイスの石垣の上に立って世の中を見下ろしている。

首から胴体にかけての深い青と緑、そして少し赤みを帯びた配色が、人工的に作り出すことが出来ない芸術品のように映る。

そして、胴体から突き出た大きな尾は、ピンとまっすぐに斜め上方向に伸びている。

「ところで、君はさっきからここで一体何をしているのかね?」

キジは僕の方を向き、インタビューを始める。

「僕は今、タネツケバナという雑草を抜いているんです。」

「前から一度聞いてみようと思っていたけど、なんでいつもそんなに雑草ばかり抜いているのかね?私には、その必要性が全く理解できないのだよ。」

「それは、僕がこの芝生スペースを大事にしていて、芝生スペースは芝が敷き詰められて雑草一つない状態というのが最高だからなんです。」

「へえ。それはつまり、、君にとって「最高の芝生」というものはとても重要なものなんだね。」

僕は一瞬、回答に詰まる。。

「最高の芝生」は僕にとって、そこまで重要なものなのだろうか。。

そう考えているうちに、キジは西側の方へ向きを変え歩き始め、姿を消した辺りでもう一度「ギャーギャー!(ブルブル)」と雄叫びを上げて完全に僕の元から去っていった。

。。。。

粗方のタネツケバナを抜き終えたはずだが、きっと抜け忘れているタネツケバナが予想以上に沢山残っていることだろう。

僕は思いついたように薪ストープ用の大きめの着火剤を火挟で掴んで、それに火をつけた。

そして、勢いのある火を、芝生スペース一面に広がる去年の枯れた芝草に近づけて着火する。

乾ききった枯芝はすぐに燃えて、僕が抜き損なったタネツケバナを炎で包んだ。

よしよし、燃えろ燃えろ。

きっと、こうすることで火には弱い抜き損ねたタネツケバナのことだから、すぐに枯れてしまうだろう。

僕は着火剤を何個も燃やし、その度に枯れ草に火をつける。

ちょうどいい風が吹くと、火は勢いよく燃え広がる。

知らない人が見ると、ちょっとした放火魔かと思うかも知れない。

。。。

こうして、戦いは終わった。

まさに、芝生スペースは全体的に黒く焼け野原と化した。。

それは終戦という言葉がピタリと当てはまる光景だ。。

タネツケバナよ、、しばしのお別れだ。

また来年の戦いを楽しみにしている。。

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