加藤ヒロ 公式サイト

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2019.08.11

さよなら、夏の甲子園。

甲子園には魔物が棲んでいると昔から言われる。

この日、母校にとっての甲子園の魔物は8回の裏に現れた。でも突然現れたわけじゃない。試合の中盤くらいから、その姿が見え隠れしていた。



僕は朝7時羽田発のANA013便に乗り込んだ。到着地は大阪伊丹。同級生や在校生達もそれぞれの交通手段で続々と甲子園に向かっていた。

試合は第三試合。開始予定時刻は13時だが、その時刻を過ぎてもなお、第二試合の熊本工業対山梨学院の試合が延長戦に突入して決着がつかない。

その間、僕を含むアルプス席に入場する学校関係者は第14号門入り口を先頭に長い行列を作って待機。

僕は幸いにもテント下の日陰に陣取ることができたが、かなりの人が直射日光の下で一時間以上も立ったまま入場を待ち続けることに。。

僕も日陰とはいえ汗がダラダラと背中を伝っていくのがわかる。。もうこの時点で体力の半分を使い果たした感じだ。冷凍したペットボトルのスポーツドリンクの氷も半分が溶けている。

それにしても、最初から嫌な予感がないわけじゃなかった。というのも、母校の試合を三塁側で観戦して勝った記憶が僕にはないのだ。まあ、そんな個人的な思い込みなんて、当てにもならないと、、その時は思っていた。



さて、第二試合も終わり、いよいよ入場。僕は同級生達とはぐれてしまったので、一人でアルプススタンドの最上部へと登る。日差しはきついが、高い場所にいると海から吹いてくる浜風のおかげで、幾分でも暑さを凌ぐことができる。

試合は、初回に先制点こそ許したもののすぐに同点に追いつき、試合中盤には母校らしい小技を絡めた攻撃で、少ない安打数で着実に得点を重ねていく。

6回表が終わった時点で4-1でリード。

すると僕の背後から「練習試合でも4-1で勝ったらしいよ。この学校には負けたことないいうて言いよった。」という声。

僕の周りはどうやら野球部OBやOGの方ばかりのようで、みんな口々に野球に詳しそうなコメントをしている。

「今日はピッチャー、調子ええのう。」

「このまま今日も4-1で終わるじゃろう。」

3点リードに周りの雰囲気は、楽勝とはいかないまでも、「負けることはないだろう」という雰囲気が支配し始めていた。



僕は自分がまだ高校1年生だった頃の記憶を辿っていた。

夏の県予選を控えた5〜6月ごろ、全国の強豪校を招いての練習試合が毎週のように組まれる。修徳、天理、岡山南、松山商、、、いずれもそうそうたる強豪校ばかりだ。

僕はノートとペンを手に、他の1年生部員と並んでバックネット裏のスタンドに座って全ての試合を観戦していた。

今でも印象に残るは松山商との練習試合。正直、ミスも多く、攻撃力も強いとは言えない松山商は、僕の目からみても決して強いチームには映らなかった。僕の記憶が正しければだが、2試合ともに母校が勝ったと記憶している。

そのわずか2〜3ヶ月後、僕の目からみてあれだけ弱かったはずの松山商は、夏の甲子園でベスト8まで勝ち上がり、あの桑田・清原擁するPL学園と大接戦を演じ、惜しくも2-1で敗れるもあと一歩で勝てていた、というチームにまで強くなっていた。

高校野球のチームが、それくらい短時間の間にとてつもない成長を見せることは決して珍しいことではない。だから、練習試合で勝った・負けたということほど当てにならないということを、僕はその松山商の変貌ぶりで思い知らされていた。



今年の広島県予選の準決勝。優勝候補の大本命だった広陵高校を13-5で破って決勝に勝ち上がり、そして手にした甲子園の切符。

僕もPCの画面にかじりついて広陵との一戦を見守っていた。試合は、当初の予想を覆すような展開で、4回の表が終わった時点で6-0と母校がリード。

5回の裏に3点を返されて試合は6-3の3点差に。

その時は、いつ広陵の強力打線が爆発して試合をひっくり返されてもおかしくないし、どれだけ点差をつけても最後までハラハラドキドキしながら見ていた。

誰しもが同じ気持ちだっただろう。

同じ3点リードの試合展開でも、県予選の広陵戦と、この日の甲子園での岡山学芸館との一戦では、全く違う空気を試合を見る側が生み出していたのも事実だった。。。僕自身も含めて。



「勝てるだろう、と思った瞬間から負けのシナリオは動き出す」。。

僕がよく会社のメンバーに話す言葉だ。

スポーツの試合に限らず、実は会社組織の運営やビジネスの場でもこの教訓を忘れられないくらいの沢山の苦い経験を積んできた。その中でも、この言葉が一番現実を如実に表す言葉だと信じている。

M&Aの世界でも契約締結して「よし、これで終わった」なんて気を緩めたら、とんでもない大どんでん返しが待っていたりするものだ。

だから、案件が完全に成立するクロージングまでは、一瞬たりとも気を抜いてはいけない、という教訓。

この日、誰が気を抜いたわけではない。選手だって監督だって、応援席だって、みんな精一杯頑張った。

でも、甲子園の魔物は、無意識のうちに漂い始めた「負けることはないだろう」という目に見えない空気感、というものを見逃してくれなかったようだ。

とりわけ実力や精神面でのボラティリティーの高い高校野球の世界だから、そういう思いもしない出来事が割と起きてしまいやすのだろう。

これが「甲子園には魔物が棲んでいる」と言われる所以なのかも知れない。



3年生にとっては、これで最後の夏が終わってしまったけど、また新しいチームで来年の甲子園を目指して頑張ってほしい。

これだから、甲子園は永遠に憧れの場所であり続けられる所以でもある。

さよなら、甲子園。またいつか。




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