ねじまき鳥クロニクル
2月のこと。。
まだ新型コロナウイルスの影響がここまで大きくなる事を、現実的な感覚を伴って予測できていなかった頃の話。
村上春樹の長編小説「ねじまき鳥クロニクル」の舞台を観に行った。
主人公を取り巻く様々な登場人物が描き出す何気ない日常の中で交錯する人々の心、そこに潜む闇、現代社会が生み出す光と影、元日本兵の老人が語る戦時中の壮絶な記憶、そして人それぞれが抱える人生における宿命。。。
そして、世の中を動かすためのネジを巻くねじまき鳥。
様々なテーマが入り混じったとても奥深い作品だ。
予想していた”お芝居”としての感覚を超えて、踊りと音楽、そして舞台セットだけで場面の再現を試みるミュージカル的な要素も織り交ぜられていて、複雑なストーリーが判りやすく再現されていながらとても芸術性の高い作品だなあ、という感想を持った。
その数週間後、「ねじまき鳥クロニクル」の舞台公演はすべて中止となったことが発表された。
舞台に限らずどのイベントもそうだが、本番までに出演者の皆さんをはじめ、あらゆる関係者の方々が開催に向けて血の滲むような思いをしてきた事を考えると思うと胸が痛む。
そんな中で、幸いにもこの舞台を観劇できた事は、僕にとってはとても大きな財産になったように思う。
今日から5月。
ふと机の上に置かれた腕時計に目をやる。
時計の針は止まったままだ。
僕は家の中では腕時計をしない。
外出する時には身につけるが、外出時間そのものが短いためか、ここ1ヶ月の間は動いては止まり、動いては止まり、を繰り返していたようだ。
そして、僕も時計をする度にいちいち時刻を合わせる事に気が乗らなかった。
腕時計の日付は4月22日。
そうか、、10日近くも時間の進みが遅くなるくらい、僕の腕時計はネジを巻かれていなかったのか。
大きく鳴き声を上げて世の中のネジを巻く鳥もしばらくは鳴いていなかったようだ。
どうやら緊急事態宣言の解除時期は先送りされるらしい。
だからと言って、立ち止まっているわけにはいかない。
今日から新しく始まる月。
皐月と呼ばれる一年で最も緑が深まるこの美しい月を、、僕たちにとって素晴らしい月にするためにも、気分を変えて頑張っていこうと思う。
腕時計のネジを巻いて。