安心してください、やってますよ!
ガランとした木造建の大きな家屋。
天井は一般的な住居に比べて格段に高い。
壁の両側にある窓は、換気のために常に開け放たれ、冬至を目前にした乾いた冬の風が容赦なく室内に吹き込んでくる。
その年季の入った板張りの床の上に、頬を伝った汗が滴り落ちる。
シャツは汗まみれになり、まるで真夏の灼熱の太陽の下で自転車を立ち漕ぎしている時のようにぴっちりと背中に張り付く。
今日もまた、誰もいない卓球場で死闘を繰り広げてしまった。
プロデューサーの安藤さんと僕の中で、最近最も盛り上がっているイベントだ。
50歳を超えたおっさん二人が2時間、まともな休憩をほぼ取ることなく卓球に打ち込む姿は、どうやら側から見ればかなり奇妙に映るらしい。
初めての卓球場では、そのお店の人から「あなた達、大丈夫ですか?ちゃんと休憩してくださいね。」と心配されることもある。
尤も音楽プロデューサーとシンガーソングライターを夫々肩書きにもつ二人が、音楽イベント以外でここまで盛り上がっていいのか、という本質的な問題がないわけではないが、このご時世、人様にご迷惑をおかけすることなく楽しめる遊びとして、卓球はその要件を満たすことは間違いない。
まさか自分がここまで卓球に夢中になるとは思いもしなかった。
始まりは去年の9月。
仙台の定禅寺ジャズストリートライブの時に、たまたま僕が出演したステージのすぐ近くに卓球用品の専門店があって、そこでマイラケットを買い、ラバーを貼ってもらったのがきっかけだ。
そのまま卓球台のある温泉宿に直行し、卓球に没頭した夜が今となっては随分昔のように思える。
それ以来、1〜2ヶ月に一度のペースで安藤さんとラケットを交えている。
最初は勝負にならないくらい下手くそだったので、去年の11月に当時母校で卓球の先生をしていた同級生に習いに行ったことがある。
僕らが在校生だった頃の卓球場は、旧講堂と呼ばれる場所にあったが、どうやら今は変わってしまったらしい。
どこに行っていいかわからないので、正門付近で待っていると、ニコニコしながら体格のいい人がやってきた。
「お疲れ様です!」
ちょうど引退を表明したばかりの元広島カープの岩ちゃんだ。
その日、僕は同級生から卓球の基礎をみっちりと叩き込まれたけど、結局岩ちゃんには勝てなかった。
それから1年。
怒られるかもしれないが、この1年間のラーニングカーブの角度では、もしかしたら歌よりもギターよりも卓球の方が上かもしれない。
それくらい、フォアのスマッシュの精度は上がった。
最近はバックハンドに磨きをかけている。
いや、磨きをかける前に、ちゃんとしたバックハンドの打ち方をもう一度同級生に習いに行きたいところだが、新型コロナの影響もあり今年は広島には帰れそうにない。
コロナが落ち着いたら、真っ先に習いに行くことにしよう。
そして、最近卓球の次に盛り上がってるのは、、、競馬かな。。
おいおい、音楽はどうした⁉︎
・・・。
音楽?
「安心してください。やってますよ!」