8月に入ってからの遅い梅雨明けを機に、「待ってました!」とばかりに地上の表面温度を一気に押し上げるような夏の陽射しが降り注ぐ。
「少し冷水で冷ましてから、今度はバーナーの炎で一気に焦げ目をつけていきましょうね〜。」と、誰かが空の上からクッキング動画を撮りながら地球を料理しているとしたら冗談じゃない。
豪雨災害による被害も、森林火災などの被害も、そう、既に地球は悲鳴を上げている。
と言いながら、子供の頃、アリの巣を水攻めにして遊んだ経験がある僕にとっては、、、とても心の痛い話だ。
そんな事を思いながら、今日もいつものように車をコインパーキング場に停め、篭り場までの道を日傘をさして歩く。
閑静な住宅街を抜けて、様々なお店が立ち並ぶメイン通りに出る少し手前辺り。
「なんでこんな暑い中散歩すんねん。。」
と不満そうな顔をしたフレンチブルドッグが、日陰のコンクリートにお腹をぺしゃんとつけたまま寝そべっている。
そして、リードを引っ張って無理やり立ち上がらせようとしている飼い主の女性を上目使いで睨みつけていた。
どう考えてもフレンチブルドッグの言葉なき主張に同情したくなるが、一旦灼熱の太陽の下、散歩に繰り出した以上、散歩の途中でずっとこのまま時間を潰す訳にもいかない飼い主の事情も理解できる。
飼い主からすれば、早く家に帰って掃除もしたいし、もしかしたら溜まっている洗濯物だって早く片付けてしまいたい、と思っているかのかも知れない。
だからきっと、無理やりにでも頑として動こうとしないフレンチブルドッグの顔の右側面が歪んでしまうくらい強引にリードを引っ張っているのだ。
飼い主 「ほら!◯◯ちゃん、立って!行くよ!」
犬 「・・・・」
飼い主 「もう〜!」
それぞれがそれぞれの思惑を内に秘めたまま譲らない拮抗した状態が続く。
こんな時、大切なのはお互いがメリットを見出すことができる、その”共通項”を探り当て共有することだ。
フレンチブルドッグにしてみれば、少しの間我慢して頑張って家まで歩いて帰れば、クーラーの効いた涼しい部屋で、美味しいお水とおやつにありつくことが出来る。
飼い主にしてみれば、強引にリードを引っ張るのではなく、少しの間だけでもフレンチブルドッグを抱っこして炎天下の中を歩いて家に帰ることで、溜まった家仕事を片付けることが出来る。
だから、ここはお互いのため一刻も早く家に帰るという選択肢を取ろうではないか!
大切なのは、それを見出し、共有するための”話し合い”なのだが。。。
少なくとも、僕が通り過ぎる数秒の間に、フレンチブルドッグがその気配を示すことは一切なかった。
きっと今頃、飼い主に抱き抱えられて力づくで家に連れ帰られていることだろう。。
話し合いが大切と誰もが言うかも知れないが、相性が悪い者同士が下手に話し合いなんか持とうものなら、事態を更に悪化させる危険性だってある。
話し合いをしたところで、あの太々しい態度を取っていたフレンチブルドッグの主張はきっとこうだ。
「元を正せば、いつまでも寝てないでもっと早起きして朝の涼しい時間帯に散歩すりゃあいいじゃん!僕は起こしたんだ、何度も。その度にあなたは愚図りながら、ずっとベットの中から出てこなかったじゃないか!」
確かにこの言い分は正しい。
だけども、「そもそも論」は時には有効であるが、こういう状況では持ち出さない方がいい。
事をややこしくするだけだ。
まずは目先の問題解決を優先した方がいい。
過去を切り離さなければ見つけることの出来ない未来への扉だってある。
大人しく飼い主に抱き抱えられて家に帰るというシナリオが円満な解決策なんだろう。
飼い主の女性は、そもそも夏が嫌いだけど仕方ないからフレンチブルドッグを暑い中散歩に連れ出した。
更にこの女性にとっては、コロナ禍で仕事にも支障が出ていて、その心理の不安定さから前の晩も朝起きれなくなるくらいお酒を飲んでしまったのかも知れない。
「そもそも、夏なんて嫌い。。」
「そもそも、新型コロナなんてなければ。。」
「そもそも、あんた(フレンチブルドッグ)なんて飼ってなければ。。」
そもそも論に立ち返った時に、飼い主が連発するであろうネガティブな主張が目に浮かぶ。。。
これでは、誰も幸せにはなれない。
「そもそも、豪雨なんて無ければ。。」
「そもそも、Go Toキャンペーンなんてやらなければ。。」
色々とそもそも論をしたくなる気持ちもわからなくもないが、残念ながら僕たちが生きているこの現実社会では、豪雨災害で復旧途上の街に今日も夏の日差しがアスファルトが溶けるほどに照りつけ、そして、新型コロナウイルスの新規感染者数は毎日のように増加の一途をたどっている。
出来る限り多くの人がこの難局を乗り越えるための”共通項”って何だろうか。
耳に優しい話だけを聞き入れ、理想を振りかざしてのゼロか100かの施策ばかりでは、世の中が右往左往してしまうのは目に見えているし、誰かが言ったように人災にもなりかねない。
夕暮れ時、涼しい部屋でくつろいでいる飼い主の女性の姿。
昼寝から目が覚めたフレンチブルドッグは、ムクッと起き上がり、飼い主に近づいてこう伝えるだろう。
「犬にとって熱せられたアスファルトは、人間が焼けた砂浜を歩くのと同じなんだ。だから、炎天下での都会での犬の散歩はやめてほしいのだ。」と。
「わかった。ごめんね。明日から朝早く散歩行こうね。」
きっと飼い主の女性は、微笑んでこう答えるはずだ。
