力を抜くこと
子供の頃からずっとそうだった。
とにかく力を抜く事が苦手だった。
子供頃にアトピー性皮膚炎に苦しんだ。
体がいつも痒くて脱力できないからか、必然的にリラックスする事を知らないまま育った。
野球バットを振る時、ボールを投げる時、走る時、字を書く時、泳ぐ時、いつでも力んでいた。
むしろ、力を入れて歯を食いしばる姿は賞賛されるものだと勘違いしていた。
だから、いつも力んでは歯を食いしばっていた。
若い頃は、力づくで物事を進めても、そこそこに克服できる事が多かった。
それでも、水泳はずっと苦手で今でも泳ぎは得意ではない。
自分は筋肉質だから水に浮きにくいのだと思い込んでいたが、今思えば、力が抜けない体質ならば水に浮くはずもない。
だから、いつもバシャバシャと水を叩いて溺れているようにしか泳げなかった。
力づくで克服できない物事があると自覚したのが、高校時代のそろばんの授業でのこと。
力むと余計な珠に指が触れて上手く行かなかった。
それでも力づくで検定試験をクリアした。
でも、これ以上の級は無理だな、と思った。
力んだらダメなんだという限界を初めて体感した。
以前、あのイチロー選手が言っていた。
「少しでも体が緊張する、つまり力むとパフォーマスは最大限に発揮できない」と。
きっと天才の条件の一つは、無意識に力を抜いてリラックスできる状態でパフォーマンスすることが出来る事なんだろうと思った。
大人になってゴルフを始めた。
レッスンプロの先生に、何度も「力を抜け」と言われた。
「いいですか?あなたはこんな感じで力を入れてますよね。よく見ていてください。僕がやるみたいに、ほら。こうやって力を抜いてスイングしてみてください。」
いろんな先生から、何百回となく同じことを言われた。
ギターを始めてからも、歌を習ってからも、師匠から同じことを言われた。
「こんな感じで弾いてみて。」
何百回も言われた。
でも、”どうあるべきか”は教えてくれても、”どうすればそれができるようになるか”、言い換えれば、”こうすれば力が抜ける”という核心を教えてくれる人はなかった。
それもそのはず。
その答えは、自分で見つける以外にないものだから。
気づけば年齢から言って、僕もとうの昔に大人になっていた。
もう若い頃のように力づくで物事を押し進められることも出来なくなるだろう。
色んな思考錯誤をした。
ある日、数ある先生から言われたことの中に幾つかのヒントが隠されていることに気づいた。
力を抜くためには、逆に力を入れる必要がある、ということ。
言い換えれば、然るべき場所に力を込めることで、初めて不必要な体の部位の力が抜けてリラックス状態を作れるのだ。
これが正解なのかどうなのかは分からない。
でも、自分なりにたどり着いた答え。
力を抜くための答えが、逆に力を入れることにヒントがあったとは、中々面白いと思った。
そういう発想の逆転で常識を疑うことの必要性を感じる。
コロナになってずっと閉じこもり生活をしているからこその気づきだったのかも知れないけど、これで何かが変わることに期待している。
そんな2021年の夏。
僕のプロフィールの特技に、”泳ぐこと”が加わる日が来れば、あながち間違いではないのかも知れない。